2013年、私の資産は何もしなくても増えていきました。ネット銀行の外貨預金に置いていたお金が、円安で勝手に膨らんでいったのです。その額、為替差益だけで年間およそ60万円。
通帳の残高が増えるたび、私はこう思いかけていました。「もしかして、自分は投資がうまいのかもしれない」と。今回は、その勘違いの話です。18年の投資人生の中でも、失敗として数字に残っていないぶん、たちの悪い失敗だったと思っています。
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この記事の要点
- 2013年、アベノミクスの円安で外貨預金だけで年間約60万円の為替差益が出た
- ただしそれは実力ではなく、円安が一方向に進んだという環境要因だった
- 「利益の中身が実力なのか追い風なのかを区別する」習慣が、その後の18年を支えている
2013年、私は株を1株も持っていなかった
2013年といえばアベノミクス相場です。日経平均が急騰し、株を持っていた人の資産がぐんぐん増えていった年でした。ところが当時の私は、株を1株も保有していませんでした。
中心にしていたのは、トラリピのFXと、ネット銀行の外貨預金です。2008年の投資デビューで買った株を塩漬けの末に手放してから、株からは足が遠のいていました。アベノミクス相場を株なしで見送ったことは、今でも個別株遍歴の中の反省点として残っています。
当時の総資産は約500万円。2011年の東日本大震災の頃が約300万円でしたから、2年で200万円ほど増えた計算です。ただしその中身は、毎月の給料からの入金と、トラリピFXの利益と、そして外貨預金の為替差益。株式相場が歴史的に上昇した2年間の成績としては、ずいぶん地味なものでした。
その資産の一部を外貨預金に置いていました。この配置は「攻めた」結果ではなく、株が怖かったから消去法で選んだものです。預金という名前がついているだけで、なんとなく安全な気がしていました。
なぜ株ではなく外貨預金だったのか
いま振り返れば「アベノミクスの初動で株を買わない」という判断は大きな機会損失でした。ただ、当時の心境には当時なりの理屈がありました。
まず、2008年の投資デビューで買った株が長い塩漬けになった記憶が生々しく残っていました。買ってすぐ利益が出たのに、買い直したら下がって動けなくなる。リーマンショック直後の雇用不安の空気も相まって、「株は怖いもの」という感覚が体に染みついていたのです。
さらに2009年には、トラリピFXで強制ロスカットを経験し、元本20万円を8万円まで減らしています。株でつまずき、FXでも一度退場しかけた人間にとって、「預金」という名前がついた外貨預金は、数少ない「怖くない置き場所」に見えました。
つまり私の外貨預金は、リターンを狙って選んだ攻めの一手ではなく、恐怖心が選ばせた消去法でした。それが結果的に年60万円を生んだのですから、皮肉なものです。攻めの判断で得た利益なら「実力かもしれない」と検証する余地がありますが、逃げた先でたまたま儲かった利益を実力と呼ぶのは、さすがに無理があります。
年60万円の利益は「何をした」結果だったのか?
答えを先に言うと、何もしていません。
2013年の為替は、円安がほぼ一方向に進みました。ドルを持っているだけで円建ての評価額が膨らんでいく相場です。私は外貨を買って、置いていた。それだけです。判断らしい判断は何もしていないのに、年間で約60万円の為替差益が出ました。
当時の私の年間の投資成績を並べると、トラリピFXで年15〜30万円、外貨預金の為替差益で約60万円。外貨預金が主力の稼ぎ頭でした。設定を考え、値動きに向き合っていたトラリピよりも、ただ置いていただけの外貨預金のほうが、倍以上稼いでいたわけです。

通帳を見るたびに残高が増えていて、正直「自分は投資の才能があるのかも」と思いかけていました。何もしていないのに、です。
なぜそれが「勘違い」だと言えるのか?
利益の中身を分解してみれば、すぐに分かることでした。
あの60万円の源泉は、私の判断でも技術でもなく、「円安が一方向に進んだ」という環境そのものです。同じ時期に外貨を持っていた人は、誰でも同じように儲かっていました。むしろ株を持っていた人は、私よりずっと大きく増やしていたはずです。つまり私は「うまかった」のではなく、「追い風の吹く場所に、たまたま立っていた」だけでした。
怖いのは、追い風の中にいるとき、人は自分の実力を過大評価しやすいことです。もしあのとき「自分は為替がうまい」と信じてレバレッジを上げていたら、その後の円高局面で手痛い授業料を払っていたと思います。実際、私は2009年に一度、FXの強制ロスカットで元本の6割を失っています。あの失敗の記憶があったから、かろうじて謙虚さを保てたのかもしれません。
外貨預金という商品の弱点も、あとから知った
恥ずかしい話ですが、外貨預金という商品の構造的な弱点を知ったのも、ずいぶんあとになってからです。一般的な話として整理しておくと、次のようなものがあります。
- 為替手数料がかかる:預け入れと引き出しの両方で通貨を交換するため、そのぶんのコストが利益を削る
- 為替差益は雑所得として総合課税:株の利益(申告分離課税20.315%)と違い、所得が大きいと税率が上がる
- 預金保険(ペイオフ)の対象外:「預金」という名前でも、円預金と同じ保護はない
「預金だから安全」という当時の私の感覚は、名前の印象に引っ張られただけのものでした。金融商品を名前で判断してはいけない、というのもこの時期の学びの一つです。
「実力と追い風を区別する」がその後の18年を支えた
この気づきは、その後の投資人生でずっと効いています。
2021年に本格的な分散投資へ切り替えてから、資産は大きく増えました。ただ、その大部分は米国株の上昇と円安という「追い風」によるものです。私は自分の腕で増やしたとは思っていません。資産推移の記事でも書いたとおり、私がやったことは「退場しなかった」ことくらいです。
逆に、追い風は必ず止まります。2024年には、長く続いた円安の巻き戻し——円キャリー取引の解消が起き、私は長年持っていた高金利通貨のポジションを手放しました。あのとき冷静に撤退できたのは、「このポジションの利益は金利差と円安のおかげで、自分の実力ではない」と最初から思っていたからです。実力だと信じていたら、きっと「また戻るはず」としがみついていたでしょう。

「増えたのは追い風のおかげ」と言い続けるのは、少し寂しくもあります。でもそう思っていたほうが、風向きが変わった日に正しく動けるんですよね。
「追い風か実力か」を見分ける、私なりの方法
とはいえ、利益の中身を分解するといっても、難しい計算は必要ありません。私が今もやっているのは、次の2つの問いを自分に投げるだけです。
一つ目は、「同じ資産を持っていた人は、みんな同じように儲かったか?」という問いです。答えがイエスなら、それは市場全体の追い風です。2013年の外貨預金はまさにこれでした。2021年以降の米国ETFの伸びも同じです。インデックスに乗った利益は、インデックスの手柄であって私の手柄ではありません。
二つ目は、「自分の判断がなければ、この利益はなかったか?」という問いです。たとえば2024年8月の暴落で売らずに済んだのは、生活防衛資金を厚めに置くという自分の設計があったからで、これは多少は自分の判断の成果と呼んでいいと思っています。逆に、上げ相場の含み益をいくら眺めても、そこに私の判断は入っていません。
この2つを年に一度、資産の記録を締めるときに自問しています。18年分の記録を振り返ると、「自分の判断の成果」と呼べるものは驚くほど少なく、ほとんどが追い風でした。それでいいのだと思います。個人投資家の仕事は、風を起こすことではなく、風の吹く場所に居続けて、風向きが変わった日に落ち着いて動くことだからです。
今、利益が出ている人に伝えたいこと
もし今、あなたの資産が順調に増えているなら、一度だけ利益の中身を分解してみてほしいと思います。その利益は、あなたの判断が生んだものでしょうか。それとも、相場全体の追い風によるものでしょうか。
分解した結果が「追い風」だったとしても、落ち込む必要はまったくありません。追い風の場所に資金を置けていたこと自体は、間違いではないからです。大事なのは、追い風を実力と取り違えて、風が止まった後も同じ行動を続けてしまうことを避ける、その一点だけです。
私の場合、2013年の外貨預金がその教訓を、損失ではなく利益の形で教えてくれました。損をして学ぶより、ずっと安い授業料だったと思っています。むしろ2009年の強制ロスカットのように痛みを伴った失敗より、この「痛くなかった勘違い」のほうが、放置していたら後々高くついたはずです。失敗談は損した話ばかりが注目されますが、儲かったのに間違っていた話にこそ、次の落とし穴が隠れているのだと思います。
まとめ
2013年、外貨預金だけで年60万円の為替差益が出ました。しかしそれは私の実力ではなく、アベノミクスの円安という追い風でした。あのとき「自分は投資がうまい」と勘違いしたままレバレッジを上げていたら、と思うと今でも少しぞっとします。利益が出ているときほど、その中身が実力なのか環境なのかを区別する。18年の投資人生で、いちばん静かに効き続けている教訓です。
現在の私の外貨建て資産は、外貨預金ではなく米国ETFなどの形が中心になっています。全体の配分は現在のポートフォリオ全公開をご覧ください。
この記事を書いた人
いとこん(@itoconn_oj3)。2008年、リーマンショックの年に100万円で投資を開始。翌年にはFXの強制ロスカットで元本の6割を失い、1年半投資から離れたことも。それでも退場しなかった結果、18年で資産は約7,900万円になりました。
※本記事は個人の投資体験の記録であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。手数料・税制等の詳細は各社の公式情報をご確認ください。投資は自己責任でお願いします。詳しくは免責事項をご覧ください。

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