2009年のある朝、パソコンを立ち上げて口座を見たら、残高が8万円になっていました。前の晩は20万円でした。
一晩で12万円が消えていました。
しかも、この口座に入金したのは、そのわずか2週間前です。最初の1週間で数万円の利益が出て、次の1週間で退場しました。
この記事は、私がFXの自動売買「トラリピ」で最初の大きな失敗をしたときの記録です。原因はあとから分かりました。トラップの間隔が狭すぎたこと、ただそれだけです。
先に断っておくと、これはマネースクエアのトラリピ口座での出来事です。私はFXで複数の口座を使い分けていて、2024年まで主力にしていたのは別の口座(DMM FX)でした。損失の舞台と主力口座は別物なので、そこは混ぜずに書きます。
リーマンショックの直後に投資を始めた
私が投資を始めたのは2008年、世の中がリーマンショックで大騒ぎしていた、まさにその時期でした。
きっかけは職場の先輩からもらったすき家の株主優待券です。「株を持っているとこれがもらえる」と言われて、初めて証券口座を開きました。新車の頭金として230万円を払った直後で、手元に残っていたのは100万円ほどでした。
最初に買ったゼンショーの株は、含み益が1万円出たところですぐ売りました。その話は初めて買った株はゼンショーに書いています。
株を少し触ってみて、次に興味を持ったのがFXでした。理由は単純で、株より少ない資金で始められそうに見えたからです。
20万円で、最大135万円分のポジションを持っていた
当時知ったのがトラリピ(トラップリピートイフダン)という自動売買です。
仕組みを簡単に言うと、決めた価格帯に注文を等間隔でばらまいておき、相場が上下するたびに自動で売買を繰り返して利益を積む、というものです。米ドル/円で始めました。
魅力に感じたのは、自分で相場を読まなくていいという点でした。仕事中も、寝ている間も、システムが勝手に売買してくれる。
私の設定はこうでした。
- 1本あたり1,000通貨
- トラップは10〜15本
- 証拠金は20万円
当時のドル円は1ドル90円前後です。仕掛けた注文が全部約定すると、90万円から135万円分のポジションを持つことになります。証拠金20万円に対して、おおよそ4倍から7倍です。
この計算を、私は当時していませんでした。今この数字を書き出せるのは、あとから振り返っているからです。始めるときに見ていたのは「1本決まればいくら入る」という上振れ側だけでした。
最初の1週間で数万円。それが罠だった
入金して1週間で、数万円の利益が出ました。
20万円に対して数万円ですから、週利で言えばとんでもない数字です。当時の私は「これはいける」と思いました。仕組みが優秀なのだと解釈していました。
今なら分かります。あれは優秀だったのではなく、トラップの間隔が狭かっただけです。
間隔が狭いと、価格が少し動くだけで注文が次々に約定し、次々に利益確定していきます。だから成績が派手に見えます。同時に、同じ値幅の中に多くのポジションを抱え込むことになります。
つまり、「よく見えること」と「危ないこと」が、まったく同じ原因から出ていました。 私は前者だけを見て、後者を見ていませんでした。
朝、口座は8万円になっていた
そして次の1週間で、その朝が来ました。
当時はリーマンショックの後で、円高が進んでいた時期です。
2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻の直前、ドル円は108円前後でした。それが破綻を境に下げ続け、同年12月には87円台をつけています。2009年に入ってもこの流れは終わっていませんでした。私が仕掛けたのは、その真っ只中です。
価格帯に等間隔で注文をばらまく手法にとって、相場が一方向に走り続ける局面はいちばん不利な形でした。 上下に振れてくれれば利益確定が回りますが、下げ続ける相場では約定が片側にしか起きません。
買い下がる形で仕掛けた注文は、下がるたびに次々と約定していきます。ポジションは増え、含み損はそれに合わせて膨らみました。間隔が狭いぶん、そのスピードも速かったはずです。
証拠金が維持できない水準まで来ると、システムが自動的にすべてを決済します。それが強制ロスカットです。
ここが、この経験でいちばん書いておきたいところです。よくある失敗談だと「含み損を抱えたまま放置してしまった」「損切りできなかった」という話になります。私の場合は違いました。
悩む時間も、損切りする勇気も、必要ありませんでした。 判断する余地が、そもそも一度も回ってこなかったからです。すべては私が寝ている間に執行され、私は翌朝それを知っただけでした。
自動売買のいいところ(自分で判断しなくていい)と、悪いところ(自分で判断できない)は、同じ性質の裏表でした。ここでも私は片面しか見ていませんでした。
残った8万円を引き上げて、1年半離れた
金額としては12万円です。今の資産額から見れば小さな数字ですし、生活が傾いたわけでもありません。
ただ、私がそのあとにとった行動は、残った8万円を口座から引き上げて、そのまま放置するというものでした。解約はしていません。お金だけ抜いて、見ないことにしました。
そして1年半、投資から離れました。
損した金額よりも、「自分が何も分かっていなかった」という事実のほうがこたえました。2週間のうち1週間は勝っていたのに、その勝ちが危険信号だったことにすら気づいていませんでした。
戻るきっかけは、他の人の運用ブログだった
1年半後に戻るきっかけになったのは、トラリピの運用記録を公開しているブログでした。
自分の失敗の原因が「間隔が狭すぎた」ことだと理解できたのは、他人の設定を見たからです。同じツールを使って、同じ通貨ペアで、違う結果を出している人がいる。何が違うのかを設定の数字として並べて見たとき、初めて自分が何をしていたのかが分かりました。
やめたのは自動売買そのものではありません。同じトラリピに戻りました。仕組みが悪かったのではなく、私の使い方が悪かったからです。
戻るときに変えたのは、レバレッジでした。ただし、その下げ方が重要だったと思っています。
私が選んだのは「仕掛ける本数を減らす」ではなく、「同じ設定に対して入れる資金を厚くする」ほうでした。
本数を減らせばリスクは下がりますが、利益を拾う機会も減ります。証拠金を増やす形なら、拾える機会はそのままに、耐えられる値動きの幅だけを広げられます。同じ「レバレッジを下げる」でも、手触りがまったく違いました。
そしてもう一つ、戻るときに初めてやったことがあります。トラリピのシミュレーションを使って、トラップ本数と証拠金維持率の関係を、入金する前に確認するようにしました。
「ここまで下がったら維持率がいくつになるか」を、数字で先に見る。それだけです。失敗する前の私は、この作業を一度もやっていませんでした。私が最初に失ったのは12万円ではなく、この一手間だったのだと思います。
これらを変えてから、その後15年、FXは大きく崩れることなく続きました。通算では+106万円のプラスです。15年分の話はFX歴15年の最大損失は60万円にまとめました。2024年にはトラリピで最大損失60万円も出していて、こちらも同じマネースクエアの口座での出来事です。
そしてFXそのものは、2024年に主力から撤退しました。 口座は残していますが、相場が一方向に振れているときに低レバレッジで少し触る程度です。撤退の理由は損失ではなく、税制とポートフォリオ全体の見直しでした。
今の自分が、2009年の自分に言うとすれば
言うことは一つだけです。「最初の1週間で数万円勝ったなら、そこで一度止まって計算しろ」。
自動売買は、うまくいっているときほど確認する習慣がつきません。しかも私の場合、勝っていた理由と負けた理由が同じ「間隔の狭さ」でした。勝ちが、危険の証拠だったわけです。
そして自動売買では、減るときに自分は関与できません。 起きたことを翌朝知るだけです。だからこそ、判断できる唯一のタイミングは「始める前」しかありませんでした。
これから自動売買を試す人がいるとしたら、始める前に一度だけ、「全部のトラップが約定したら、いくら分のポジションになるのか」を計算してみることをおすすめします。私の場合、その答えは20万円の口座に対して135万円でした。数字が出た瞬間に、入れる金額のほうを考え直すことになるかもしれません。
私はそれを、12万円と1年半を払ってから知りました。
FXをこれから始める人向けには、これからFXを始める人へに、15年やって最初に伝えたいことをまとめてあります。
投資から距離を置きたくなった瞬間は、この一件を含めて3回ありました。その話は投資から距離を置きたくなった3つの瞬間に書いています。
※本記事は私個人の記録であり、特定の商品や取引手法を推奨するものではありません。FXはレバレッジによって預けた資金以上の損失が生じる可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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